「煙突の上でこの森繁と対したあがたも熱演。芝居は二度目という余裕のなさが追われる男に妙なリアリティーを持たせた。」「この森繁」とは森繁久彌のこと。35年前の11月大阪・梅田コマ劇場での森繁久彌特別公演『にっぽんサーカス物語 道化師の唄』公演にあがた森魚が出演した際の読売新聞の劇評を探し出した。(画面上☒)あがた森魚の余りの素人演技にあきれた森繁が共演を嫌い、作・演出の小幡欣治(今春死去)に降ろせと要求。小幡の「一生懸命やっているじゃないか」との言葉にそれならと毎日開幕前に特訓が始まった。今日は5点、今日はちょっといいから10点だと5点刻みの採点ををつけられそのうち「やれば出来るじゃないか」と褒めてくれたという。1ヶ月後の千秋楽の後森繁は「この私でも勝てないものが3つある。子供(子役)と動物と素人だ。それにしても君はそのまんまだな、役者は舞台の袖からステージに上がるときは誰でも凄く緊張をするものなんだ。それを君はスーっとそのまんま上がる」と感心したそうである。
一度目の芝居とは今年7月10日に死去したつかこうへいの『熱海殺人事件』(初演)である。主役を三浦洋一、平田満、あがた森魚のトリプルキャストで競った。出演が当日になって「今日はお前だ」という決め方。舞台を見せたい友人、知人に知らせる事が出来ないためにつかに「前もって出演日を決めてくれないか」と申し入れたところ不快がり出番が減った。以来つかこうへいとの交流は無いが、つかの口移し演出は刺激的で面白かった。
このエピソードは8月7日の第1回あがた森魚 キネマパラダイスでのトークの一部です。
お知らせ:9月4日(土)~6日(月)の3日間羊座は夏休みをいただきます。